関大英米文学英語学会大会講演要旨
「英語の多様性、あるいは非正規的英語と役割語」
金水 敏
講師は、拙著『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(岩波書店、2003)その他で、日本語を中心に「役割語」というフィクションの言語が我々の知識の中に存在することを指摘した。たとえば「そうなんじゃ、わしが知っておるんじゃ」という〈老人語〉、「そうですわよ、私が存じておりますのよ」という〈お嬢様ことば〉がその典型であり、特定の話し方と人の類型・社会的グループが人々が共有する知識の中で緊密に結び付いていることが分かる。
一方、英語ではこのような〈老人語〉や〈お嬢様ことば〉と等価な類型を見いだすことはむずかしいが、このことが英語に役割語が存在しないことを示す訳ではない。従来、非正規的(なまった)英語やピジン英語などと呼ばれてきたヴァリエーションがフィクションの中で意識的に使われる時、その多くは話し手の属性を端的に表すために用いられているので、これらを役割語と見なすことが可能である。本講演では、このような観点から小説や映画、マンガ、アニメ等に現れた英語のヴァリエーションについて、その実態や歴史的形成過程またコミュニケーション上の機能を分析していく。
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